9月5日(午後の部)に大阪会場で開かれた改正景品表示法のセミナーに参加しました。参加希望多数で東京会場はすぐに満席、大阪会場は抽選かつ1事業者1人限定参加とのことで、業界関係者の関心の高さが伺えます。
セミナーの内容は、令和6年10月1日から施行される改正景品表示法の主な改正事項と、最近の景品表示法違反事例についてでした。
主な改正事項
今回の改正では、表示等を行う事業者の自主的な取組の促進や、違反行為に対する抑止力を強化することで、一般消費者の利益を一層保護することを目的とされています。
事業者の自主的な取組の促進
確約手続の導入
今回の改正景表法の大きな目玉です。改正前の景表法では、不当表示等にあたる疑いがある行為(=違反被疑行為)に対して、消費者庁は以下の2つの方法でしか取り締まることができませんでした。
①違反を認定できる場合に、措置命令・課徴金納付命令を行う
②違反の恐れがある場合に行政指導を行う
そこで、違反被疑行為を行った場合でも早期是正・再発防止策を実施し、一般消費者への被害回復等をきちんと行う事業者を評価するために、今回の確約手続が導入されました。
確約手続とは、簡単にいうと、違反被疑行為をした事業者に、自主的に是正措置計画を作成・申請してもらう代わりに、その計画が認定された場合には、行政処分を免除する制度のことです。
具体的な確約手続の流れは以下になります。
消費者庁より、景表法違反の疑いの理由となった行為の概要・法令条項等の通知(=確約手続通知)が事業者に届く
↓
60日以内に事業者が確約計画を自主的に作成・申請する
↓
認定基準を満たした場合には、確約計画が消費者庁より認定・公表される
↓
確約計画の履行状況を報告する
↓
措置命令・課徴金納付命令が免除される
なお、認定基準を満たすポイントは以下の2点です。
・措置内容の十分性:違反被疑行為およびその影響を是正するために、十分な措置が講じられているか。
・措置実施の確実性:確約措置が実施期間内に確実に実施されると見込まれるか。
措置命令の十分性を満たすためには少なくとも、類似事案の措置命令等で命じられているものと同等の措置を講じる必要があります。また、確実性を満たすためには、例えば、その措置をいつまでに行うのか・被害回復のために消費者へどのように周知を行うのか・再発防止策はどうするか・必要な額やその資金調達はどのように行うのかなどを明らかにし、確約計画で示し認められる必要があります。
セミナー後の質問会によると、一度作成された計画を途中で修正・変更・データ追加などは行うことは可能であるとのことでした。
確約計画は法運用の透明性や、他の事業者の参考にもなり得ることから、確約計画の概要とともに、事業者名・違反被疑行為の概要などが一緒に公開されます。
なお、確約計画が一度認定された場合でも、以下の事由に該当した場合には、取り消されてしまう場合があるため注意が必要です。
①認定を受けた確約手続に従って、是正措置や影響是正措置が実施されていないと認められる場合
②虚偽または不正の事実に基づいて確約手続の認定を受けたことが判明した場合
一方で、以下に該当する場合は、迅速に是正されることが期待できないことから、そもそも確約手続の対象外となります。
①過去10年間に措置命令・課徴金命令を受けている場合(繰り返し違反の場合)
②悪質・重大な違反被疑行為の場合(例:表示に根拠がないことを認識しながら、あえて表示を行っているなど)
課徴金制度における返金措置の弾力化
改正前は、違反行為のある表示等を行った商品・サービスを購入した消費者に対して一定の返金を行った場合、課徴金額から当該金額が減額される返金措置がありましたが、活発に利用されているとはいい難い状況でした。
そこで、従来の金銭による返金方法に加えて、改正後には第三者型前払式支払手段(いわゆる電子マネー等)を利用した返金が可能となります。いわゆる電子マネーとは、例えばpaypayや楽天Edyなどを指すようです。
違反行為に対する抑止力の強化
課徴金制度の見直し
今回の改正法では、事業者が適切に売上額を整理できていないなど、課徴金を計算するための基礎となるべき事実が把握できない場合に、合理的な方法により推計することができる規定が整備されます。具体的には、課徴金対象期間のうち課徴金の計算の基礎となるべき事実を把握した期間における売上額の日割平均額に、当該事実を把握できない期間の日数を乗じて算出されます。
また、10年以内に違反行為を繰り返した事業者に対して課徴金の額を1.5倍にする規定が新設されます。
罰則規定の拡充
故意に優良誤認表示・有利誤認表示を行うような悪質なケースに対し、直罰(100万円以下の罰金)の規定が新設されます。
最近の景品表示法違反事例
セミナー後半では、最近の違反事例で多かったステルスマーケティングやNo1表示の事例が紹介されました。
【ステルスマーケティング】医療法人社団祐真会に対する措置命令(令和6年6月7日公表)
インフルエンザワクチン接種のためにクリニックに来院した患者に対し、Googleマップのプロフィールの口コミ投稿欄において★5または4を投稿することを条件に、インフルエンザワクチン接種費用から割引する旨を伝え、患者に投稿をうながしました。
これは祐真会が口コミ投稿表示の内容の決定に関与していることから事業者の表示と言えますが、内容全体から事業者の表示であることが明瞭になっているとは認められないことから、ステルスマーケティング告示に該当すると判断されました。
【ステルスマーケティング】RIZAP株式会社に対する措置命令(令和6年8月9日公表)
X(旧twitter)においてインフルエンサーが投稿した表示(PR)投稿を、自社Webサイトにおいて「お客様の声」として第三者の自主的な感想であるかのように表示していました。事業者の表示と認められるPR投稿であるにもかかわらず、Webサイトの「お客様の声」に掲載された表示内容全体から、事業者の表示であることが明瞭になっているとは認められないことから、ステルスマーケティング告示に該当すると判断されました。
【いわゆるNo1表示】エクスコムグローバル株式会社に対する措置命令(令和6年3月1日公表)
旅行ガイドブックに掲載されたモバイルルーターのレンタルサービス「イモトのWiFi」の広告において、「お客様満足度No1」「海外旅行者が選ぶNo1」「顧客対応満足度No1」の表示が掲載されました。
これらの表示は、消費者が実際にサービスを利用したことがある者への調査と認識され得る表示であったにも関わらず、実際は単にWebサイトの印象を問うものであり客観的な調査に基づくものではなかったことから、行政処分を受けました。
【いわゆるNo1表示】株式会社バンザンに対する措置命令(令和5年1月12日公表)
当該広告において「オンライン家庭教師利用者満足度第1位」「オンライン家庭教師口コミ人気度第1位」「AO・推薦入試にお勧め出来るオンライン家庭教師第1位」との表示を行っていましたが、アンケートはサービス利用の有無を確認することなく実施されたものであり、客観的な調査方法ではないと判断されたことから6346万円の課徴金納付命令を受けました。
なお、No1表示の下には「2020年3~4月実施:サイトのイメージ調査」と小さく注釈はあったものの、消費者にとって分かりにくいものでした。さらに、満足度に関するアンケート調査をサイトイメージで実施したとは通常思わないだろうと判断されることからも、例え注釈の文字を大きくしたとしてもこの表示は問題である、との消費者庁の方の見解でした。
【参考資料】
・令和5年改正景品表示法等説明会(消費者庁表示対策課)
・消費者庁 景品表示法
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/
ステマ規制の関連記事はコチラ▼