医療・ヘルスケア企業の広告担当者が知るべき景品表示法の不当表示規制

医療・ヘルスケア業界では、広告表現は消費者の健康に直結する重要な情報となります。しかし、効果を訴求するあまり、気づかぬうちに景品表示法に違反してしまうケースが後を絶ちません。本記事では、医療・ヘルスケア分野の広告担当者が特に注意すべき不当表示の基本と実務上の対応策について解説します。

目次

景品表示法における不当表示とは

景品表示法は、消費者に実際よりも著しく優良または有利であると誤認を与える表示を「不当表示」として禁止しています。不当表示には大きく分けて3つの種類があり、医療・ヘルスケア分野では特に優良誤認表示に注意が必要です。

不当表示

1. 優良誤認表示
商品・サービスの品質、規格、その他の内容についての不当表示。医療・ヘルスケア業界では、効果効能や成分に関する表示がこれに該当するケースが多く見られます。

2. 有利誤認表示
商品・サービスの価格、その他の取引条件についての不当表示。「通常価格」との比較表示や、「業界最安値」といった表現に注意が必要です。

3. その他誤認されるおそれのある表示
内閣総理大臣が指定する不当表示。おとり広告やステルスマーケティングなどが含まれます。

医療・ヘルスケア業界で特に注意すべき優良誤認表示

1. 効果効能の誇大表示・虚偽表示

医療・ヘルスケア分野で最も問題となるのが、商品やサービスの効果効能に関する表示です。実際には効果がないにもかかわらず、あたかも効果があるかのように表示することは優良誤認表示に該当します。

違反例

  • ダイエット食品で「食事制限なしで必ず痩せる」と表示したが、実際にはそのような効果の根拠がなかった
  • 健康食品で「がんが治る」と表示したが、医学的根拠がなかった
  • 空間除菌グッズで「身の回りのウイルスを除去」と表示したが、実証データがなかった

2. 成分・配合に関する虚偽表示

原材料や成分の含有量について、実際とは異なる表示を行うことも優良誤認表示となります。

違反例

  • 「80種類の栄養成分配合」と表示していたが、実際には30種類しか配合されていなかった
  • 「国内産原料のみ使用」と表示していたが、実際には海外産原料も混入していた

3. 体験談やデータのねつ造

利用者の体験談やアンケート結果をねつ造し、効果を誇張することも不当表示に該当します。医療・ヘルスケア商品では、消費者が効果を期待して購入するため、体験談の信頼性は特に重視されます。

違反例

  • 利用者の体験談を用いて痩身効果を訴求したが、実際にはその内容はねつ造されたものであり、効果の実証データも根拠のないものであった

不実証広告規制:立証責任は事業者側に

医療・ヘルスケア分野の広告担当者が特に理解しておくべきなのが「不実証広告規制」です。消費者庁は、効果や性能に優良誤認表示の疑いがある場合、事業者に表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができます。

合理的な根拠として認められる資料

資料が合理的な根拠として認められるためには、以下の2つの要件を満たす必要があります。

要件1:客観的に実証された内容であること

  • 試験・調査によって得られた結果
  • 専門家、専門家団体もしくは専門機関の見解または学術文献

試験・調査は、学術界または産業界において一般的に認められた方法で実施する必要があります。事業者自身や関係機関が行った試験でも、適切な方法で実施されていれば根拠として提出可能です。

要件2:表示された効果・性能と実証内容が適切に対応していること
提出資料が客観的に実証された内容であることに加え、表示された効果・性能が提出資料によって実証された内容と適切に対応していなければなりません。

資料提出期限と不提出の場合の扱い

消費者庁から資料提出を求められた場合、原則として15日以内に提出する必要があります。正当な事由がなく資料が提出されない場合、当該表示は不当表示とみなされます。

なお、「新たな試験・調査を実施する必要がある」といった理由は正当な事由とは認められません。つまり、広告を出す時点で既に合理的な根拠資料を保有していることが求められるのです。

有利誤認表示にも要注意

二重価格表示

医療・ヘルスケア商品でも、「通常価格」と「セール価格」を併記する二重価格表示は一般的です。しかし、比較対照価格が適正でない場合、有利誤認表示に該当するおそれがあります。

違反のポイント

  • 「今なら半額」と表示しているが、実際には常にその価格で販売している
  • 架空のメーカー希望小売価格と比較して割引を装っている
  • 「最近相当期間にわたって販売されていた価格」とはいえない価格を「通常価格」として表示している

「最近相当期間にわたって販売されていた価格」とは、一般的には、セール開始時点から遡る8週間のうち、当該価格で販売されていた期間が過半を占めており、かつ通算2週間以上であり、当該価格で販売された最後の日から2週間以上経過していない価格を指します。

競合他社との比較表示

「業界No.1」「他社製品の2倍の効果」といった比較表示も、根拠が不十分であれば不当表示となります。

違反例

  • 適正な比較をしていないにもかかわらず、「予防効果No.1」と表示
  • 他社製品と同程度の内容量しかないのに「他社の2倍の内容量」と表示

事業者が講ずべき表示管理体制

平成26年の景品表示法改正により、事業者は景品類の提供や表示に関する事項を適正に管理するために必要な体制整備を行う義務が課されました。医療・ヘルスケア企業の広告担当者は、以下の7つの措置を理解し、社内で実践することが求められます。

7つの管理措置

1. 景品表示法の考え方の周知・啓発 関係する役員や従業員に対し、景品表示法に関する研修や勉強会を定期的に実施します。

2. 法令遵守の方針等の明確化 法令遵守の方針や手順を社内規程や行動規範として明文化します。

3. 表示等に関する情報の確認 広告を出す前に、表示の根拠となる情報を確認します。効果効能を訴求する場合は、必ず実証データを確認しましょう。

4. 表示等に関する情報の共有 確認した情報を、関係する各部門が必要に応じて共有できる体制を構築します。

5. 表示等管理担当者の選任 表示を管理する担当者または担当部門をあらかじめ定めます。

6. 表示の根拠情報の保管 表示の根拠となる情報を、商品・サービスが一般消費者に供給され得ると合理的に考えられる期間、保管します。

7. 問題発生時の迅速な対応 不当表示が明らかになった場合、事実関係の確認、消費者への周知、再発防止策を迅速に実施します。

違反した場合の法的リスク

景品表示法に違反した場合、以下のような処分を受ける可能性があります。

措置命令

消費者庁は、違反行為が認められた場合、事業者に対して以下を含む措置命令を行います。

  • 違反したことを一般消費者に周知徹底すること
  • 再発防止策を講ずること
  • その違反行為を将来繰り返さないこと

課徴金納付命令

優良誤認表示または有利誤認表示を行った事業者には、違反行為に係る商品・サービスの売上額の3%(再犯の場合4.5%)に相当する課徴金が課されます。ただし、課徴金額が150万円未満(売上額5000万円未満)の場合、または「相当の注意を怠った者でない」と認められる場合は、課徴金納付命令は行われません。

なお、事業者が自主的に返金措置を実施した場合、返金相当額が課徴金額から減額されます。

医療・ヘルスケア分野特有の注意点

薬機法との関係

医療・ヘルスケア分野では、景品表示法だけでなく、医薬品医療機器等法(薬機法)も遵守する必要があります。薬機法では、医薬品でない健康食品等について、疾病の治療や予防効果を標ぼうすることが禁止されています。

景品表示法違反と薬機法違反は別の問題ですが、実務上は両方に抵触するケースが多く見られます。広告担当者は両法令を理解し、適切な表現を心がける必要があります。

エビデンスの質を重視する

医療・ヘルスケア商品は、消費者の健康に直接影響を与える可能性があるため、広告表現の根拠となるエビデンスの質が特に重要です。

  • 査読付き学術論文に基づくデータを優先する
  • 試験条件と実際の使用条件が適合しているか確認する
  • サンプル数が統計的に十分であるか検証する
  • 専門家の見解を得る場合は、その専門家が当該分野で一般的に認められた権威であるか確認する

実務での対応チェックリスト

医療・ヘルスケア企業の広告担当者が日常業務で確認すべき事項をまとめます。

広告制作前のチェック

  • 訴求する効果効能について、合理的な根拠資料を保有しているか
  • 根拠資料は客観的に実証された内容か(適切な試験方法、専門家の見解等)
  • 表示内容と根拠資料の内容が適切に対応しているか
  • 体験談を使用する場合、統計的客観性が確保されているか
  • 成分や配合量の表示は正確か
  • 比較表示を行う場合、適切な根拠があるか
  • 二重価格表示を行う場合、比較対照価格は適正か

広告公開後の管理

  • 根拠資料を適切に保管しているか
  • 表示管理担当者を明確にしているか
  • 関係部門で情報を共有できる体制があるか
  • 問題発生時の対応手順を定めているか

おわりに

景品表示法の不当表示規制は、消費者を保護するとともに、公正な競争環境を維持するための重要な規制です。特に医療・ヘルスケア分野では、消費者の健康に直結する商品・サービスを扱うため、広告表現には高い倫理性と正確性が求められます。

不当表示は、事業者に故意や過失がなくても景品表示法違反となります。広告担当者は、広告を出す前に必ず合理的な根拠を確保し、適切な管理体制を構築することが不可欠です。

消費者に正しい情報を提供し、信頼されるビジネスを展開することが、企業の長期的な成長につながります。本記事で解説した内容を参考に、コンプライアンスを重視した広告運用を実践していただければ幸いです。


参考情報

  • 消費者庁ウェブサイト「景品表示法」
  • 「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」(平成12年6月30日公正取引委員会)
  • 事例でわかる景品表示法

この記事の編集者

薬剤師/株式会社Officeファーマヘルス代表。
メーカーでスキンケア製品や衛生用品の研究開発に従事した後、薬局薬剤師に転職。 患者さんに服薬指導をする中で、さらに多くの人に医療や健康の正しい情報を発信していきたいという思いを持ち、執筆活動を始める。
SEO検定1級、YMAA認証(薬機法医療法遵守広告代理店認証)取得。       

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