医療コンテンツ制作:SEOと薬機法をいかに両立し、信頼を得られるか?

医師

デジタル化が加速する現代において、医療機関やヘルスケア関連企業にとって、自院のウェブサイトやオウンドメディアは、患者様や社会と繋がるための極めて重要な情報発信拠点となっています。新たな患者様に来院いただくための集患施策、あるいは自院の専門性や理念を伝え、信頼関係を構築するブランディング活動において、その役割は増すばかりです。

そして、この情報発信の効果を最大化するために不可欠なのが、SEO(検索エンジン最適化)です。人々が健康上の悩みや疑問を抱いたとき、その多くは検索エンジンを通じて解決策を探します。この検索結果の上位に自院のコンテンツを表示させることは、事業戦略上の課題となると言えるでしょう。

しかし、医療情報の領域には、一般の商業分野とは異なる厳格な法的規制が存在します。それが「薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)」や「医療広告ガイドライン」です。SEOで高い効果を狙う表現が、これらの法規制に抵触してしまうというジレンマは、多くのウェブサイト担当者やコンテンツ制作者が直面する深刻な問題です。

本記事では、この「SEO対策」と「薬機法遵守」をいかにして両立させるか、その重要性と具体的な方法について考えます。

目次

医療情報を届けるために:①「読んでもらう」ためのSEO対策

まず1つ目として、「読んでもらう」記事にするためのSEO対策について確認します。SEOとは、Googleなどの検索エンジンにおいて、特定のキーワードで検索された際に自社のウェブページを上位に表示させるための一連の施策を指します。これにより、広告費を投じることなく、継続的に関心の高いユーザーを自社サイトへ誘導することが可能となります。

特に、医療や健康に関する情報は、Googleによって「YMYL(Your Money or Your Life)」と呼ばれる領域に分類されています。これは、その情報が人々の幸福、健康、経済的安定、安全に重大な影響を与える可能性があるため、コンテンツの品質が極めて厳格に評価されることを意味します。

この品質評価の中核をなすのが、「E-E-A-T」という基準です。これは、Experience(経験)、Expertise(専門性)、Authoritativeness(権威性)、Trustworthiness(信頼性)の頭文字を取ったもので、Googleがウェブページの価値を判断するための重要な指針です。

Experience(経験): そのトピックについて、執筆者が実体験や経験を有しているか。

Expertise(専門性): 執筆者やサイト運営者が、その分野における高い専門知識を有しているか。

Authoritativeness(権威性): その執筆者やサイトが、その分野の権威として広く認知されているか。

Trustworthiness(信頼性): サイト全体が信頼できる情報源であるか。情報の正確性、安全性、透明性が担保されているか。

医療コンテンツにおいてE-E-A-Tを高めるためには、「誰が(専門家か)」「どのような根拠に基づいて(医学的エビデンスがあるか)」情報を発信しているかを明確に示すことが、検索順位を左右する上で決定的に重要となります。

医療情報を届けるために:②「正しく伝える」ための薬機法や医療広告ガイドライン

次に、2つ目のポイントである薬機法や医療広告ガイドラインの遵守についてです。これらの法律・ガイドライン規制の根底にある目的は、不正確または誇大な情報から国民を保護し、適切な受療選択を支援することにあります。ウェブサイトも、患者を誘引する目的があれば「広告」と見なされ、その規制対象となります。

医療広告ガイドラインでは、患者や一般市民に誤解を与える可能性のある、以下のような表現が厳しく制限されています。

例えば「誇大広告」は禁止されています。「絶対に安全な手術」「100%成功します」といった表現や、「最高の治療法」など、科学的根拠に乏しい最上級の表現は認められません。

次に、「比較優良広告」も禁じられています。特定の他院を名指しして「〇〇クリニックよりも優れた治療を提供」といった形で比較し、自院の優位性をアピールすることはできません。

さらに、多くの医療機関が用いたいと考えるであろう、治療前後の写真(ビフォーアフター)の掲載も、原則として認められていません。これらは、同様の結果が誰にでも得られるかのような誤解を与える可能性があるためです。また、治療効果に関する患者の「体験談」を掲載することも、主観的な感想であり、効果を保証するものとして不適切とされています。

また薬機法では、国内で薬事承認を得ていない未承認の医薬品や医療機器を用いた治療について、その有効性や安全性を広告することも原則として禁止されています。

これらの規制は、医療の不確実性を無視した過度な期待を抱かせず、冷静な判断を促すために設けられているのです。

SEO対策と薬機法を両立する難しさ

ここで、SEO対策を行いつつ薬機法・ガイドラインを遵守するのは時に難しい場合があります。

例えば、美容皮膚科のウェブサイトでシミ治療に関する記事を作成するケースを考えてみましょう。SEOの観点からは、ユーザーが検索するであろう「効果」「口コミ」といった、関連キーワードや共起語に係る内容をすべて盛り込みたいと考えるのが自然です。これらの言葉は、ユーザーの悩みに直接応えるものであり、検索トラフィックを集める上で有利に働く可能性があります。

しかし、薬機法や医療広告ガイドラインの観点から見れば、実際の患者さんから得られた効果や口コミ(体験談)を広告上で表現することは極めて問題です。なぜなら、医薬品や治療効果の発現には個人差があるにもかかわらず、口コミを掲載することで効果を保証されているかのようにみなされてしまいます。これは誇大広告に当たり、たとえ「効果の発現には個人差があります」という免責事項を記載したとしても、広告を見た人に誤解を与える可能性が高いため推奨されません。

したがって、薬機法や医療広告ガイドラインの観点から訴求力が弱まってしまうケースがあることは否めません。この表現の「弱さ」が、SEOにおける競争力を削いでしまうのではないか、という懸念をもたれる場合が多くあります。

逆転の発想:コンプライアンス遵守こそが、ユーザーからの信頼を得て長期的な流入を獲得する本質的なSEO戦略となる

この困難なジレンマを乗り越えるためには、思考の転換が必要です。それは、「法令や社会的ルールであるコンプライアンスを遵守することは、長期的に見て最も効果的なSEO戦略である」という視点を持つことです。

前述したGoogleの品質評価基準「E-E-A-T」の一つに「Trustworthiness(信頼性)」があります。Googleは、ユーザーにとって信頼できる、正確で、安全な情報を提供しているウェブサイトを高く評価しようと絶えずアルゴリズムを改良しています。

薬機法や医療広告ガイドラインは、まさにその「信頼性」を担保するために国が定めた公的なルールです。したがって、これらのルールを誠実に遵守してコンテンツを作成するという行為そのものが、Googleに対して「当サイトは信頼に足る情報源である」という極めて強力なシグナルを送ることになるのです。

誇大な表現や未承認の治療法を謳って一時的に検索順位を上げたとしても、それは決して長続きしません。いずれGoogleのアルゴリズムに見抜かれ、ペナルティを受ける可能性があります。それ以上に、不正確な情報で患者さんに誤解を与えれば、医療機関としての社会的信頼を根底から失いかねません。

つまり、薬機法を守ることは、小手先のSEOテクニックを凌駕する、ウェブサイトの存在意義そのものに関わる本質的な信頼性構築活動なのです。

実践的な両立のためのアプローチ

では、具体的にどのようにして両立を図ればよいのでしょうか。以下に、いくつかの実践的なアプローチを示します。

第一に、効果・効能を謳うのではなく、医療機関の場合であれば患者さんとのかかわり方やこだわりを伝えることに注力します。例えば、ある治療法について解説する際、「治る」「消える」と書く代わりに、患者さんにどのような検査を行い、どのようなことを心がけて説明を行っている(「安心して治療してもらうために○○を心がけている」など)のかを記載します。また、治療の一般的な経過やプロセス、そして考えられるリスクや副作用、ダウンタイムについて、丁寧かつ網羅的に記述します。これらのファクトの積み重ねが、コンテンツの専門性と信頼性を構築します。

第二に、著者情報と監修体制を徹底して明確化することです。E-E-A-Tを最も直接的に高める施策の一つです。記事の執筆者や、内容を監修した医師の氏名、経歴、専門分野、所属学会などを詳細に記載したプロフィールページを用意し、各記事からリンクを設定します。これにより、「誰が」その情報に責任を持っているのかが明確になり、権威性と信頼性が飛躍的に向上します。

第三に、医療広告ガイドラインの「限定解除要件」を正しく理解し、活用することです。ガイドラインでは、特定の情報(問い合わせ先、自由診療の費用、主なリスク・副作用など)をウェブサイト上で適切に明記することを条件に、一部の広告表現が許容される場合があります。このルールを正確に理解し、必要な情報を漏れなく掲載することで、表現の幅を合法的に広げることが可能です。

まとめ

医療コンテンツにおけるSEOと薬機法の両立は、単にウェブサイトの流入数を増やすためのテクニック論ではありません。それは、医療機関としての社会的責任と倫理観、そして患者様に対する誠実な姿勢そのものを問う、極めて本質的な課題です。

目先の検索順位を追って誇大な表現に走ることは、短期的には効果があるように見えても、長期的には必ず信頼の失墜という大きな代償を払うことになります。

そうではなく、薬機法や医療広告ガイドラインといった社会的なルールを遵守し、あくまでも客観的な事実と医学的エビデンスに基づいた、正確で質の高い情報を地道に発信し続けること。それこそが、検索エンジンと、その先にいる未来の患者さんからの「信頼」を得られる唯一の道であり、結果として最も持続可能で強力なSEO対策となるのです。


この記事の編集者

薬剤師/株式会社Officeファーマヘルス代表。
メーカーでスキンケア製品や衛生用品の研究開発に従事した後、薬局薬剤師に転職。 患者さんに服薬指導をする中で、さらに多くの人に医療や健康の正しい情報を発信していきたいという思いを持ち、執筆活動を始める。
SEO検定1級、YMAA認証(薬機法医療法遵守広告代理店認証)取得。       

お問い合わせフォーム

目次