【医療/AI業界トピック】NEDOが日本語版医療特化型LLMの社会実装に向けた安全性検証に係る公募を発表、その背景とは?

昨年12月27日、NEDOが「日本語版医療特化型LLMの社会実装に向けた安全性検証・実証」に係る公募を一般に広く行うことを発表しました。このことから、医療現場で安全に利用できるAI(人工知能)の実装に向けて国が積極的に進めていく方向性であることが推測できます。

近年、生成AIは目覚ましい進化を遂げていますが、医療分野でも活用を推進することで、15年後に予想される医療・介護保障や経済への深刻な影響(2040年問題)を解決する糸口となるのではないかと期待されています。

この記事では、NEDOの公募内容から見る社会背景と医療業界が直面する課題についてお伝えします。

目次

NEDOとは

NEDOは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(New Energy and Industrial Technology Development Organization)の略称です。日本の産業技術力の強化とエネルギー・地球環境問題の解決を目的として1980年に設立されました。

NEDOは国からの予算で技術戦略を策定して国・経産省に政策エビデンスを提供したり、産学官連携を推進し日本の産業イノベーションを先導したりする役割を果たしています。

引用元:NEDOホームページ

技術戦略の策定、プロジェクトの企画・立案を行い、プロジェクトマネジメントとして、産学官の強みを結集した体制構築や運営、評価、資金配分等を通じて技術開発を推進し、成果の社会実装を促進することで、社会課題の解決を目指します。

イノベーション・アクセラレーターとしてのNEDOの役割

そのため、NEDOが「日本語版医療特化型LLMの社会実装に向けた安全性検証・実証」について取り組む姿勢を示したことはすなわち、国が今後医療分野でのAI活用を本格的に推進していく方向性であるということが推察できるのです。

実施に、令和6年12月26日に公表された経済・財政新生計画改革実行プログラム2024において、集中取組期間である2027年度までに生成AI等を用いた医療データの利活用を促進していくことが示されています。[5]

引用元:内閣府ホームページ 経済財政諮問会議 経済・財政新生計画改革実行プログラム2024 一部改変

LLMとは

LLM(Large Language Model)は、大規模言語モデルと呼ばれる深層学習の一種です。膨大なテキストデータを学習し、高度な言語理解と生成能力を持つ人工知能モデルのことを指します。
例えば、論文やWebページなどから大量のテキストデータを学習し、テキスト生成や質問応答、文章要約、図やグラフ等へのデータ変換などを行うことができます。従来のAIと比較して、より自然で流暢な文章生成や複雑な要求への応答ができるのが特長です。

代表的なLLMとしては、OpenAIの「ChatGPT」やPerplexityの「Perplexity AI」、Googleの「PaLM」などがあります。

2040年を展望した“医療・福祉サービスの生産性UP”の必要性

冒頭でふれた「2040年問題」とは、2040年頃に日本の高齢化がピークを迎え、医療・介護システム等に深刻な影響を与える日本の社会課題を指します。
この年、65歳以上の高齢者が全人口の約35%を占め、特に85歳以上の人口が急増すると予測されています。一方で、20~64歳の生産年齢人口は、人口全体のちょうど半分を占めるまでに減少すると推計されています。

引用元:厚生労働省 平成の30年間と、2040年にかけての社会の変容

このため2040年には、医療・介護の需要と供給のバランスが崩れることが懸念されており、具体的な課題としては、医療費の急増や医療従事者の不足、地域間の医療格差の拡大などが挙げられます。
これらの課題に対処するため、医療提供体制の効率化や地域包括ケアシステムの早期構築が重要な対策とされており、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進や医療分野での生成AI・LLMの活用が積極的に行われようとしています。

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医療DX(デジタルトランスフォーメーション)とは

近年よく耳にする「医療DX」ですが、具体的にどのようなものを指すのでしょうか。
医療DXとは、デジタル技術を活用して医療・保健・介護分野全体のサービスや業務プロセスを効率化する取り組み全体のことです。保健・医療・介護の各段階で発生する情報やデータを管理して、業務やデータ保存の外部化・共通化・標準化を行うこと、その結果としてより良質な医療やケアを提供することを目的としています。

代表的な医療DXの取り組みには以下のようなものがあります。[1]

・電子カルテの導入と標準化
2030年までに全医療機関での電子カルテ普及を目指し、HL7 FHIRなどの国際規格を採用して情報共有を促進する。
・オンライン資格確認システムの構築
マイナンバーカードを用いた保険資格確認を可能にし、2024年12月からは現行の保険証発行が廃止され本格運用が開始されました。
・遠隔医療の推進
通信技術を活用したオンライン診療を普及させ、患者の利便性向上と感染リスク低減を図ります。
・全国医療情報プラットフォームの創設
電子カルテやレセプト情報などを全国で共有し、医療・介護サービスの質向上を目指します。
・診療報酬改定DX
共通算定モジュールの開発や電子点数表の改善により、診療報酬改定に関する作業の効率化とコスト削減を実現します。

医療DXの推進により、医療機関間の情報共有がスムーズになったり、医療従事者の負担軽減・業務効率化に繋がったりすることで、患者さんへの医療サービスの質を向上させることができます。さらにそれだけでなく、収集された医療データは新しい医薬品や医療機器の研究開発のために二次利用することもできるのです。

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医療LLMで特に注目される電子カルテへの活用

LLMは医療現場において様々な活用が期待されていますが、その中でも特に注目されている一つが電子カルテのフォーマット変換です。[2]
医療LLMを活用することで、現在の電子カルテの普及に関する問題点を克服できると期待されています。

現在の電子カルテ普及の問題点

厚生労働省は2030年までに電子カルテの普及率を100%にする目標を掲げていますが、最新データの2023年(令和5年)の電子カルテの普及率は、一般病院で65.6%、一般診療所で55%と報告されています。[3]

引用元:厚生労働省 病院の情報システムに関する現状と課題について

400床以上の大規模病院や200~399床の中規模病院では順調に普及が進んでいるのに対して、200床未満の小規模病院や診療所では普及率が大きく伸び悩んでいるのが現状です。

またすでに電子カルテを導入した医療機関においても、現在では医療機関同士で電子カルテを経由して医療情報の交換をおこなう場合、システムのメーカー(ベンダーといいます)間で規格やデータ形式が異なるため連携が難しくなる点が問題視されています。

医療LLMで異なる電子カルテの連携がスムーズに

上述のとおり、LLMはデータの変換が得意であるため、多様な電子カルテのデータ形式から統一されたアウトプットを出すことができます。[2]

引用元:内閣府ホームページ (東京大学松尾研究室資料)

LLMの活用により電子カルテのデータ形式の変換をスムーズに行うことができれば、今までデータ形式の変換にかかっていた時間と人件費を削減できるだけでなく、医療情報が失われるリスクも減らすことができるのです。

2040年に向けて、少ない医療従事者で医療の質を落とさずに多くの患者さんを診るためには、電子カルテの普及や医療DXの推進が必要不可欠です。その中で医療LLMに対する期待が大きいことが分かります。

まとめ

昨年12月末にNEDOが「日本語版医療特化型LLMの社会実装に向けた安全性検証・実証」に係る公募を一般企業向けに行うことが発表されました。すでに海外では医療特化型LLMの開発が積極的に進められています。

今回は医療特化型LLM活用の一例として電子カルテへの活用を紹介しましたが、そのほか医療診断や医療文書の作成、創薬研究など様々な用途に対しても活用が期待されています。[4]

国が本腰を入れて医療特化型LLMの社会実装に向けて動き出した今、医療機関や関連事業者も足並みを揃えて対応していかなければならないでしょう。
15年後の医療従事者の労働環境を守るためにも、医療機関は積極的にデジタル技術やAIを取り入れていくことが大切です。

【参考文献】
[1]厚生労働省 データヘルス改革・医療DXの進捗状況について(令和5年12月15日)
[2]内閣府ホームページ(東京大学松尾研究室 生成AIの産業における可能性)
[3]厚生労働省 病院の情報システムに関する現状と課題について(令和6年12月2日)
[4]厚生労働省ホームページ(東京大学松尾研究室 生成AIの進展と保健医療における活用可能性)
[5]内閣府ホームページ 経済財政諮問会議 経済・財政新生計画改革実行プログラム2024(令和6年12月26日)

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この記事を書いた人

薬剤師/株式会社Officeファーマヘルス代表。
メーカーでスキンケア製品や衛生用品の研究開発に従事した後、薬局薬剤師に転職。 患者さんに服薬指導をする中で、さらに多くの人に医療や健康の正しい情報を発信していきたいという思いを持ち、執筆活動を始める。
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