【令和7年4月施行】“普通の風邪”が5類感染症に分類される意義と医療機関・患者への影響とは

11月29日に厚労省より、いわゆる”普通の風邪”を5類感染症に分類することを正式に決定したと発表があり、話題となりました。
今まで普通の風邪は、感染症法上の位置づけはありませんでしたが、この決定により来春からは新型コロナウイルスやインフルエンザと同様に、普通の風邪も医療機関から保健所への届出・流行状況の把握(サーベイランス)が必要となります。

この記事では、厚労省の今回の決定の意義と、医療機関・患者への影響についてお伝えします。

この記事で読者が解決できる事
・そもそも5類感染症とは何か、分類することの意義を知りたい
・なぜ厚労省が普通の風邪を5類感染症に分類したのか、背景を理解したい
・医療機関や患者への影響を知りたい

目次

そもそも“普通の風邪”とは?

風邪は、ウイルスが上気道の粘膜に感染し、急性の炎症を引き起こすことによって発症する病気です。風邪の一般的な症状には、鼻水や鼻づまり、のどの痛み、咳、発熱があります。

風邪の主な原因はウイルスであり、特にライノウイルスやコロナウイルス(※新型コロナウイルスを除く)、RSウイルスが多く関与しています。ただし風邪ウイルスは200種類以上存在し、自身がどのウイルスに感染したかを特定するのは困難であるとされています。

風邪は一般的に軽度の病気とされ、発熱が3日以上続くことは稀です。多くの場合、風邪は自然に回復しますが、症状が長引く場合は他の病気の可能性も考慮する必要があります。

5類感染症の定義

引用元:厚生労働省 感染症法の対象となる感染症の分類と考え方

5類感染症は、感染症法に基づく5類型分類の中で感染力や重篤性等の危険性が最も低いとされるものです。
具体的な5類感染症の例としては、季節性インフルエンザ、麻疹、風疹、感染性胃腸炎、RSウイルス感染症、性器クラミジア感染症などが挙げられます。

5類感染症には、国が流行状況を把握するために、「全数把握」を行うものと「定点把握」を行うものに分類されます。
「全数把握」は、指定の感染症を診断した全ての医師が、管轄の保健所に対して、7日以内もしくは直ちに管轄の保健所に報告します。例えば、麻疹、風疹、HIVなどが分類されます。

一方で「定点把握」は、5類感染症の一部で、患者数が比較的多く全数を把握する必要がない感染症が対象となっています。
例えば季節性のインフルエンザや新型コロナウイルス、RSウイルスが分類されます。
人口に応じて定点として指定された医療機関(指定届出機関)が管轄の保健所に届出を行います。週単位あるいは月単位で、性別・年齢階級等の区分別にまとめて患者数が届け出られます。[1]

そして今回の厚労省の発表で、いわゆる“普通の風邪”をこの5類感染症に分類し、定点把握を行うことが正式に決定されました。

風邪を5類に分類変更した背景とは

普通の風邪が5類感染症に分類される理由は、未知のウイルスを早期に検知・対応するためです。
新型コロナウイルスの流行を受け、感染症の監視体制を強化する必要性が高まりました。過去の経験から、未知のウイルスが発生した場合の早期発見が重要であると認識されています。 

また政府の方針として普通の風邪を5類感染症に分類することで、風邪の流行が確認された場合に医療機関からの報告が義務付けられ、感染症の拡大を防ぐための迅速な措置が講じられることになります。これにより、国民の健康を守るための体制が整備されることが目指されています。 
前任の武見厚労相の時には風邪ワクチン開発も検討対象として視野に入れるとのお話もありました。[2]

しかし、この決定に対しては多くの反対意見が寄せられていることは事実です。特に、医療機関の負担が増加することを懸念する声が多く、パブリックコメントでは3万件を超える意見が集まりました。
医療機関が風邪の症例を報告することにより、診療や検査の負担が増すことが懸念されており、これが医療現場に与える影響についての議論が続いています。

実際に医療機関・患者への影響はどうなるのか

では、普通の風邪が5類感染症に分類されることにより、医療機関や患者は実際にどのような影響を受けるのでしょうか。
今回の変更は、令和7年4月より施行されます。令和6年10月末~令和7年3月末については移行期間とし、自治体における定点選定及びサーベイランス体制の移行期間となります。

引用元:厚生労働省(令和6年10月) 急性呼吸器感染症(ARI)サーベイランスに係る具体的な方針について

医療機関への影響

医療機関は流行状況を把握するためのサーベイランス業務が増加し、医療機関の負担が増す可能性が考えられます。
ただし、厚生労働省の生活衛生局から提出された意見交換書において、届出の様式等を工夫すること、報告対象を明確化すること、患者数を報告する定点医療機関の数を見直すことなどで、医療機関になるべく大きな業務負荷や変動が起こらないように配慮したいと述べられています。[3]

例えば、定点として指定する観測医療機関の数を約5000件から3000件に減らしたり[図1]、今まで定点ごとに別々であった報告様式を急性呼吸器感染症(ARI)定点からは統一様式を採用したり[図2]することが検討されています。
[図1]

[図2]

引用元:厚生労働省(令和6年10月) 急性呼吸器感染症(ARI)サーベイランスに係る具体的な方針について

患者への影響

厚労省は、定点医療機関に対して患者数の報告および検体の提出のみを求めることを予定しています。[3]
そのため、検査の数が増えたり治療費が増えたりすることはありません。
また、急性呼吸器感染症に対して一律、新型コロナウイルス感染症対応時のような隔離措置を行うことはなく、就業制限等は設けられません。今までとおり自身の体調や周囲への感染リスクを鑑みながら、自己判断で休養をとれば良いでしょう。

引用元:ABC報道ニュース

一方で経済的な観点から見ると、風邪が5類感染症に分類されることは、医療費や予防接種の普及に影響を与える可能性があります。例えば風邪のワクチン開発が進むことで、予防接種の普及が促進され、結果として医療費の削減につながることが期待できるかもしれません。

まとめ

11月29日に厚労省よりいわゆる”普通の風邪”を5類感染症に分類することを正式に決定したと発表され、この分類変更は来年4月より施行されます。

定点医療機関においては、風邪の流行状況を把握するためのサーベイランス業務の負担が増えることが懸念されます。
しかし5類感染症に分類されることで、風邪の症例が指定の医療機関によって報告され、未知のウイルスの早期発見や感染流行の早期対応につながることが期待できるでしょう。
また、風邪を予防するワクチンの開発が進む可能性もあり、将来的には風邪の予防接種が推奨される日がくるかもしれません。

当面、患者にとっての負担は変わらないようであるため、今まで通り症状がつらい時にはきちんと休息をとり、なかなか症状が改善しない場合には、早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けるようにしましょう。

【参考文献】
[1]京都市役所 感染症の分類
[2]厚生労働省 武見大臣会見概要(令和6年8月2日)
[3]厚生労働省生活衛生局 「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則の一部を改正する省
令案」に関する御意見募集の結果について(令和6年11月29日)

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