団塊の世代が後期高齢者となる2025年を迎え、日本は本格的な超高齢社会の課題に直面しています。高齢者の増加は医療・介護ニーズの増大を意味し、従来の「病院完結型」「医師主導型」の医療体制は限界を迎えつつあります。
この状況を打開するために国が推進するのが「地域包括ケアシステム」です。これは、高齢者が住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けられるよう、医療、介護、予防、生活支援を一体的に提供する体制を指します。[1]
株式会社Officeファーマヘルスは、地域包括ケアシステムを実現するための鍵が、住民一人ひとりのヘルスリテラシーに支えられた「患者中心の医療」にあると考えており、そのために弊社ができること、実現したいことについて書いていきます。
地域包括ケアシステムの実現に不可欠な二つの変革
地域包括ケアシステムを絵に描いた餅で終わらせないためには、医療のあり方そのものを変革する必要があります。具体的には、以下の二つの側面からの変革が不可欠です。[1]
- 医療提供サイドの変革: 専門職が連携する「チーム医療(統合ケア)」への移行。
- 医療を受けるサイドの変革: 患者自身が治療に主体的に「参画(地域ケア)」すること。
これら二つの変革が両輪となって初めて、システムは実質的に機能します。
「患者中心の医療」こそが二つの変革を駆動する
前述の二つの変革を統合し、推進する核心的な考え方こそが「患者中心の医療」です。
これは、単に患者の希望を聞くというだけでなく、患者自身の価値観や生活背景を尊重し、情報共有を通じて患者が自らの治療方針の意思決定に参加するアプローチです。患者が自らの病状と治療を深く理解し、能動的に関わることで、服薬などを適切に継続するアドヒアランスが向上し、再入院率の低下や医療費の抑制にも繋がることが示されています。
この「患者中心の医療」を実践する過程で、医師、薬剤師、看護師、ケアマネージャーといった多職種が対等な立場で情報を交換し、連携する「チーム医療」が必然的に求められます。しかし、この多職種連携には、専門用語の壁、スケジュール調整の難しさ、そして職種間のヒエラルキー意識といった「言葉の壁」「時間の壁」「意識の壁」が存在することも指摘されています 。[1]
また同時に、患者側には自らの健康状態を理解し、意思を表明する「主体的な参画」が必要とされます。つまり、「患者中心の医療」は、システム実現に必要な二つの変革を同時に駆動させ、連携の壁を乗り越えるための共通目標となるエンジンなのです。
しかし、2023年に行われた6カ国国際比較調査では、日本は治療方針の決定に「主体的に関与したい」と考える人の割合が68.8%、「実際に関与できる」と考える人の割合も65.8%と、いずれも調査国の中で最も低いという現実があります 。つまり、「患者中心の医療」は、連携の壁を乗り越えるための共通目標となるエンジンであると同時に、日本ではそのエンジン自体の力がまだ弱いという課題も抱えているのです。[2]
立ちはだかる最大の壁 ― 国民の「ヘルスリテラシー」の問題
「患者中心の医療」が機能しない根本的な原因、そして最大の壁が、国民一人ひとりの「ヘルスリテラシー」の問題です。
ヘルスリテラシーとは、「自分の健康や生活の質にとって必要な情報を入手し、理解し、評価したうえで活用できる能力」を指します。この能力が低いことが、適切な医療行動を妨げる大きな要因となります。
2015年代の調査で日本はヘルスリテラシーの低さが欧州より低いことが指摘されていましたが[3]、2023年に日本を含む6カ国(日本、アメリカ、イギリス、オーストラリア、中国、フィンランド)で実施された最新の国際比較調査では、その実態がより鮮明になりました。[2]
- ヘルスリテラシーに対する自己評価の低さ
- 自身のヘルスリテラシーを10点満点で自己評価したところ、日本の平均点は5.4点で、比較した6カ国(米、英、豪、中、フィンランド)の中で最下位でした 。他国は7.1点~7.8点の範囲にあります 。
- 情報収集・判断能力への自信のなさ
- 健康情報・医療情報を「収集できる」と回答した日本人は72.0%・78.2%、それらを正しい情報であると「判断できる」と回答した人は58.2%・57.2%と、これも比較した6カ国の中で最も低い結果でした 。
- 受診行動の遅れと孤立
- この低いヘルスリテラシーは、具体的な行動にも表れています。原因不明の不調を感じた時、日本では「様子をみる」が63.0%と相対的に高く、そして「医療機関を受診する」は37.0%と最下位でした 。
- さらに、相談できる医療機関有無では「すぐに相談できる医療機関(医療関係者を含む)がある」と答えた人は53.8%にとどまり、これも6カ国中最下位という結果でした 。
これらのデータからも、日本の人々が自身のヘルスリテラシーに自信がなく、結果として受診をためらい、いざという時に頼れる場所がないと感じていることが考察できます。
Officeファーマヘルスが実現したいことと具体的なソリューション
この「ヘルスリテラシーの向上」という社会課題に対し、Officeファーマヘルスでは「医療×コンテンツ×テクノロジー」の力を統合し貢献していきたいと考えています。具体的には、今まで以下のような事業に取り組んでまいりました。
信頼できる情報の提供
調査で「色々な意見がありどの情報が正しいか判断しづらい」という悩みが日本の回答で最も多かった(健康情報52.2%、医療情報49.2%)ことからも分かる通り、患者さんに信頼してもらえる形で正しい情報を提供することが今求められています 。私たちは、薬剤師をはじめとする医療従事者の監修による健康コラムを制作・配信し、分かりやすく正確な情報へのアクセスを支援します。
テクノロジーによる支援
日本の健康管理におけるデジタルツール活用について「使っている」と回答した方が39.2%と他国が52.6~81.0%である中日本は6カ国中最下位でした 。私たちはデジタルツールを活用した効率的な医療提供を支援したいと考えています。過去には、LINEを活用した健康相談サービスの開発支援、消費者に正しくヘルスケア商品・サービスの情報を届けるために、AIを活用した医薬品広告表現のチェックツールの開発支援も行ってきました。
啓発活動と連携
医療機関や自治体と連携し、地域社会全体のヘルスリテラシー向上を目指す啓発活動を推進します。例えば、行動変容を促すようなコンテンツ制作・サービス開発を支援します。

これらの取り組みを通じて、生活者と医療の「橋渡し役」となることを目指します。
すべての人が自らの健康の主役となる社会へ
地域包括ケアシステムの真価は、単なる制度改革ではなく、すべての人が「自らの健康に主体的に関わり、必要な時に適切な支援を得られる」社会を構築することにあります。その実現のためには、医療提供体制の変革とともに、国民一人ひとりのヘルスリテラシーを向上させ、「患者中心の医療」を社会に根付かせることが不可欠です。
Officeファーマヘルスは、コンテンツとテクノロジーの力を最大限に活用し、誰もが健康で自分らしい人生をおくれるような日本社会の創造に貢献していきたいと考えています。
【参考文献】
[1]公益財団法人日本都市センター 地域包括ケアシステムの成功の鍵~医療・介護・保健分野が連携した「見える化」・ヘルスリテラシーの向上~
[2]Johnson&Johnson MedTech ヘルスリテラシー国際比較調査グラフ集(2024年7月)
[3]Nakayama, K., et al. “Comprehensive health literacy in Japan: a cross-sectional study of the general population.” BMC Public Health 23, 83 (2023).