日本初の近視進行抑制薬「リジュセアミニ」の登場!アトロピンの効果とは?

2024年12月27日、近視治療の分野で画期的な進展がありました。参天製薬株式会社が「リジュセア®ミニ点眼液 0.025%(アトロピン硫酸塩点眼液)」の製造販売承認を取得し、日本初の近視進行抑制を目的とする点眼薬が誕生しました。
本記事では、この新薬の登場を踏まえ、アトロピン点眼治療の最新情報と今後の展望について解説します。

目次

近視の進行とリスクについて

近視は現代社会において非常に一般的な視力障害であり、日本ではおよそ2人に1人が近視と言われています。[1]
とくに体の発達に合わせて眼球の成長が著しい学童期(6歳~12歳)には、急速に近視が進みやすくなります。
高度な近視に発展すると将来的に緑内障や網膜剥離などの深刻な眼疾患のリスクが高まることから、小児期の急激な近視進行は問題視されてきました。

近視の主な原因は眼球が楕円形に伸びる「軸性近視」です。

(図1)引用元:公益財団法人日本眼科学会 一部改変

眼軸(角膜から網膜までの長さ)が伸長すると、網膜よりも手前で焦点が結ばれ網膜にピントがあわない状態になり、遠くのものがぼやけて見えづらくなります。(図1)一度伸びた眼軸は元に戻らないことから、小児期における近視の進行を抑制することが重要となっています。

アトロピンとは?—近視進行抑制のメカニズムと開発背景

アトロピンにはムスカリン受容体を阻害して瞳孔括約筋を弛緩させる働きがあり、1%濃度のアトロピンは眼科で瞳孔を広げる散瞳薬として従来使用されてきました。[2]
一方で、アトロピンはムスカリン受容体を阻害することで強膜の菲薄化を阻害し、眼軸の伸長を抑制することが分かっており、近年では低濃度アトロピンが近視の進行を抑える予防薬として世界的に広く利用されていた背景があります。

低濃度アトロピンの近視抑制効果における研究成果は世界中で報告されており、例えば、シンガポールのATOM2研究では、0.01%アトロピン点眼液が2年間で約60%の近視進行抑制効果があることが報告されました。また日本でも、6~12才の日本人児童を対象とした多施設共同研究ATOM-J(JはJapanの頭文字)が行われ、0.01%アトロピン点眼薬の2年間の近視進行抑制率が、プラセボと比べて有意な差があることが確認されています。[3]

日本で初めて承認された近視進行抑制薬「リジュセア®ミニ点眼液 0.025%」とは

2024年12月27日に日本で製造承認を取得した「リジュセア®ミニ」は、参天製薬がシンガポールの国立眼科・視覚研究所であるシンガポールアイリサーチインスティテュート(SERI)と共同開発し、アトロピンを0.025%含有した点眼薬です。

0.025%という濃度は、効果と副作用のバランスを考慮して選択されたものと考えられます。
アトロピンの濃度が高い場合、散瞳効果が強く出て太陽の光が過剰に目の中に入ることで「目が眩し過ぎる」といった副作用が起こります。参天製薬株式会社の製品創製説明会資料(2021年10月7日)によれば、ムスカリン受容体への選択性と濃度を調節することで、近視を防ぐ役割があり且つ散瞳しない製品開発を模索されたとのことでした。

(図2)引用元:参天製薬株式会社 製品創製説明会資料(2021年10月7日)

「リジュセア®ミニ点眼液 0.025%」は、5~15才の近視の小児を対象に行われた国内第2/3相プラセボ対照二重遮蔽比較試験の結果に基づき、承認されました。プラセボと比較し、投与を開始してから2年後における眼軸長の変化量や近視の度合いを表す等価球面度数の変化量に有意な差が認められています。
なお、この有効性は3年間持続し、主な副作用としては9.0%(11/122例)に光をまぶしく感じる症状が認められたことが報告されています。[4]

「リジュセア®ミニ点眼液 0.025%」は、通常、就寝前に1日1回、両眼に1滴ずつ点眼して使用します。主に小児を対象としていることから、安全性を考慮して防腐剤は含まれておらず1回使い切りタイプの製品形態となっています。
現在のところは薬価未収載で、保険適用外の薬剤として販売される予定です。[4]

まとめ

「リジュセア®ミニ」は、0.025%の低濃度アトロピンが配合され、眼軸長の伸長を抑えて近視を予防する効果が期待できる薬剤です。
オルソケラトロジーや多焦点コンタクトレンズなどの他の治療法と比較しても、1日1回の点眼で治療ができるのは患者さんにとっても負担が少なく、アドヒアランス向上にも役立ちます。
また、より高濃度の1%アトロピンが散瞳・調節麻痺点眼剤としてすでに国内で使用実績があること、近視進行予防治療における低用量アトロピンの使用は海外でも多く実績があることから、「リジュセア®ミニ」は比較的安全に使用できると考えられます。

低濃度アトロピンは、これまでは海外で承認された同様の成分を医師が個人輸入する形で使われてきましたが、今回国内で承認が得られたことで、今後はより多くの医療機関で治療に用いられることが期待できるでしょう。

【参考文献】
[1]近視進行予防治療のアップデート,視覚の科学第41巻第2号(2020)
[2]医療用医薬品 : アトロピン 添付文書
[3]日本オルソケラトロジーと特殊コンタクトレンズ研究会
[4]参天製薬株式会社 コーポレートサイト

この記事を書いた人

薬剤師/株式会社Officeファーマヘルス代表。
メーカーでスキンケア製品や衛生用品の研究開発に従事した後、薬局薬剤師に転職。 患者さんに服薬指導をする中で、さらに多くの人に医療や健康の正しい情報を発信していきたいという思いを持ち、執筆活動を始める。
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