伝染性紅斑(リンゴ病)が今年秋ごろより関東を中心に感染拡大しており、2025年には全国的な流行が危惧されることから、日本産婦人科感染症学会などが注意喚起を行っています。
とくに妊娠初期の妊婦が初めて感染した場合、流早産や胎児に異常を引き起こすリスクがあります。
この記事では、リンゴ病の症状や妊婦への影響、予防法について薬剤師がくわしくお伝えします。
伝染性紅斑(リンゴ病)とは
伝染性紅斑はヒトパルボウイルスB19への感染により起こる感染症です。小児を中心にみられる発疹性の病気で、両頬がリンゴのように赤くなることから「リンゴ病」とも呼ばれます。[1]
主な症状としては、⼩児の場合、両頬に赤い発疹、体や⼿・⾜に網⽬状・レース状の発疹が⾒られ、1週間程度で消失します。発疹が出現する7〜10⽇前に微熱や⾵邪のような症状がみられる場合もあり、この時期にウイルスが最も多く排出されます。
⼤⼈がかかった場合には、何にも症状が出ない場合もありますが、発疹や手・腕などの関節の痛みが出ることもあります。
感染者の約半数は症状が出ないため、症状がなくても感染しているケースがあります(不顕性感染:ふけんせいかんせん)。
伝染性紅斑(リンゴ病)の感染状況
伝染性紅斑(リンゴ病)の感染状況は、2024年第48週(11月25日~12月1日)のデータで1医療機関あたり全国平均で0.89人。
特に感染が拡大しているのが、埼玉県(3.49人)、東京都(3.02人)、神奈川県(2.17人)、千葉県(2.10人)、次いで青森県(1.68人)の順となっています。[2]
昨年の同時期では全国平均が0.01人であったことから、関東圏を中心に全国的に感染が拡大しているのが分かります。
1医療機関あたりの患者数は第45週(11月4日~11月10日)頃から急激に増加しており、2025年にはさらなる流行が予想されています。
妊婦への感染とリスク
伝染性紅斑(リンゴ病)の感染拡大下で心配されるのが、妊婦の感染です。
⽇本では妊婦の抗体保有率は20〜50%とされており、妊婦が初めて感染した場合は約20%でウイルスが胎盤を通過して胎児に感染し、そのうち約20%で流死産や胎児異常(貧⾎やむくみなど)を引き起こします。
とくに妊娠の早い時期に感染することで問題になる場合が多く、妊娠初期の妊婦は注意が必要です。妊娠後期の場合には胎児に影響を与えるリスクは比較的低いとされています。[3]
感染が心配な妊婦の方は、医療機関で早めに血液検査(IgM抗体、IgG抗体)や、胎児の超音波検査を受けることが大切です。[4]
伝染性紅斑(リンゴ病)の予防法
パルボウイルスB19にワクチンはなく、特効薬もありません。そのため、日常生活での予防が重要です。
パルボウイルスB19への感染は、主に感染者の咳やくしゃみを吸い込んだり(⾶沫感染)、ウイルスが付着した手で⼝や⿐の粘膜からウイルスが侵入したり(接触感染)することで感染します。[4]
基本的な予防策は、以下のとおりです。
◆手洗いとうがい・鼻うがいを徹底する
手に付着したウイルスを洗い流すために、石鹸・流水を使って手洗いをしましょう。
のどや鼻に付いたウイルスを取り除くためにはうがいが効果的です。鼻うがいには、水道水でなく0.9%の食塩水または専用の洗浄液を使いましょう。
◆マスクを着用する
飛沫感染を防ぐため、人混みではマスクを着用しましょう。
◆感染者との接触を避ける
とくに小児や風邪症状のある方との接触を避けましょう。流行時には子どもとの食器やタオルの共有、子どもにキスをすることも控えましょう。保育士や教師など、小児と接する機会の多い職業の方は感染リスクが高いため注意が必要です。
◆兄弟がいるご家庭・保育施設では環境消毒にも配慮する
おもちゃやドアノブなどみんなが共同で触れるものはこまめに消毒を行うことも大切です。なお、パルボウイルスB19はノンエンベロープウイルスと呼ばれるアルコール消毒が効きにくい種類のウイルスになります。そのため、環境消毒の際には、次亜塩素酸ナトリウムを用いましょう。[5]
食器等の浸け置きやドアノブ、手すり、洗濯できない子どものおもちゃなどの消毒には、0.02%(200ppm)に希釈した次亜塩素酸ナトリウムを使用すると良いです。作り方は以下のとおりです。[6]
まとめ
この記事では、伝染性紅斑(リンゴ病)の感染拡大と妊婦への影響、予防法についてお伝えしました。
とくに妊娠初期の妊婦の方は、パルボウイルスB19に初めて感染することで、胎児の流早産や、むくみ・貧血などの胎児の異常を引き起こす場合があるため、感染予防を徹底しましょう。
手洗い・うがいやマスク着用などの基本的な感染対策が重要であることにくわえ、アルコール消毒が無効なことも留意しましょう。
【参考文献】
[1]厚生労働省 伝染性紅斑
[2]NHK 感染症データと医療健康情報 伝染性紅斑
[3]神⼾⼤学産科婦⼈科(2024)今、パルボウイルスB19によるリンゴ病(伝染性紅斑)が流⾏しています
[4]日本産婦人科感染症学会(令和6年12月7日)
[5]横浜市衛生研究所 感染症・疫学情報課
[6]厚生労働省 保育所における消毒の種類と方法